短編集
【奪い過ぎてしまったモノの代償】
──銃声が轟く。
英雄に近づいた少年が、英雄の左胸に、確実に心臓を狙い、一発撃った。
英雄は、何が起きたか分からず、そのまま、少年に倒れかかる。
「何故……」
この国の者に撃たれる覚えはない。
少年は、どうみても、この国のスラムに住む少年に見えた。
「私は、……お前にフィアンセを殺された」
息を切らせ、恐怖に声を震わせているのがわかる。
「フッ……声が、震えているじゃないか」
それに気付き、笑む。
「何を笑っている!! 私は、お前を許さない。お前を殺せるなら、私は死んでも構わない」
最初、激昂し英雄を突飛ばしたが落ち着きを取り戻し、倒れた英雄の近くに膝をつき、静かに言う。
「お前、女か」
ずっとスラムの少年だと思っていた相手は、男にしては小柄で、声は高く、どこか、気品さえ感じた。
「それがどうした」
「お前の名は?」
「……」
感覚がなくなってきたのか、英雄はヒューヒューと息をしながらも、彼女の名を聞いてきた。
「いいじゃないか。私は、もうすぐ死ぬ。お前と、お前のフィアンセの名を教えてくれ」
英雄は、遂に目を閉じた。
「私の名はマリア。フィアンセの名はクリス」
「そうか……」
英雄が少し目を開けると、マリアの首にかけられている二つのペンダントに気付いた。
見覚えのあるそれを見て、自分が殺した相手を思い出した。
『彼が、彼女のフィアンセか』
そう思いながら、再び目を閉じる。
遠くから、騒がしく声が聞こえる。
マリアが連れていかれる声がする。
『あぁ、彼女は、私を殺した罪で処刑されるのか』
そう思うと、何故か涙が出た。
同じように。
いや、彼女の理由は正当なモノで、ただただ理由もなく殺していた自分は英雄となり、彼女は罪人として殺される。