魔王さま100分の2

アイオネはため息をつくだけにして、無駄な念押しはしなかった。

「あと、いつもの」

魔王さまは、自分で前髪をよりわけてアイオネの前に少し屈む。

「するのですか?」
「して」

魔王さまの甘える声。

アイオネは、低くなった魔王さまの頭を優しく抱き、額にキスしてやった。

「えへへ、ありがと。これで寝られるよ」

喜ぶ魔王さまは、アイオネが扉を閉めやすいように笑顔で後ろに下がる。

アイオネは、勇者にしか動かせない扉に手をかけ、もう一度言った。

「おやすみなさい、魔王さま。また明日」

閉める扉の向こうで手を振る魔王さま。

扉が閉まりきると、夜の静寂がアイオネと魔王さまを隔てる。

アイオネがこの島にいて、一番嫌いな時間。

< 143 / 582 >

この作品をシェア

pagetop