Snow Drop~天国からの手紙~(下)【実話】
足元に落とした鞄を持ち上げると同時に何かに導かれる様に、足が動きだした。


…ドクン…ドクン…

車に近付く度に心臓の高鳴りが増した。

ふわっ……

夏から秋へと、季節が変わる頃の切なくて、優しい風があこのほっぺをゆっくりと撫でて通り過ぎて行った。


ガチャ………

見覚えのある真っ黒な車から人が出てきた。

右足…
左足…

タボダボのジーンズに、履きなれた白のスニーカーが見えた。

ドク……ン。

ゆっくりと車から現れた人は、相変わらず優しい笑顔をしていた。

『う…そ…でしょっ…ッッ…』

その優しい笑顔をずっと見ていたいのに、涙でにじんでしまった。

「あーこーっ!」

そこには…

毎日、毎日、願い続けた大好きな人の笑顔が弱々しいながらも咲いていた。

『…あっ…ちゃ…』

夢じゃないよね??
これは…幻なんかじゃないよね?

どうして、ここに居るの??

病院は…?

近くに寄って行きたいけれど、行けない。

涙でにじんで見えるあっちゃんは今にも消えてしまいそうで…

怖かったから。

一歩足を踏み出した瞬間、車ごと消えちゃいそうだから…

だから、動かずに、ただ、大好きな人を見つめ続けた。

「あこー?
泣き虫なあこー!
こっちおいでー?」

パタ…パタ…

溢れ出る涙が頬を伝って地面に落ちた。

夢か、現実か。

あっちゃんが、手招きをしている。
< 99 / 286 >

この作品をシェア

pagetop