シン



『わざわざお手紙まで書いてくれるなんて、本当良い先生ね。』



そう母親は、軽く笑みを浮かべながら、何も考えてない風に言った。




ーーー実に短絡的。



(昨日アタシはアンタより8こも上のオッサンと寝てきたんだよ。)




無造作にその2枚の紙を広げてみる。



『北野みりあ様』



冒頭はこんな書き出しだった…。



様付けでなんて呼ばれたことないから少し照れた…。




そういえば『みりあ』って名前、昔から大嫌いなんだよね。



『マリア様』みたいって小さい頃、よくからかわれたから。



マリア様かぁ………
慈悲の心で誰でも受け入れ、愛することのできる優しい人。


そんなイメージを子供のアタシは抱いてた。



でも数年後、アタシはそれとは真逆の方向へと歩んで行ってしまった……。




出会い系で偽名を使い慣れてるアタシには、
「北野みりあ」っていう本名は不思議な感じがした




医者は言った。


『存在論的な虚しさはたとえようもない不安と苦しみをもたらしていると思います。
しかし、今ここで、苦しみに耐え、不安に震えている自分を愛おしんであげて下さい。
愛してあげて下さい。
肯定してあげて下さい。
そこに本物の、自分自身、芯となるものが、わずかずつ生まれ育ってくるはずです。』




自分を愛おしむ??


何それ??


本物の自分??


芯??


ーー理解不能な領域。



みんなそんなもの持って生きてるわけ??



アタシにもそんなもの存在するの??



それって自ら作るもの??



それとももともと備わってるもの??




アタシはそれを望んでもいいの…。

















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