「 」の法廷
「いい加減機嫌直せって」
ぷに。
つんつんと頬をつつかれる。
ちらりと一瞥を向けると、甘いかんばせを浮かべて私を見つめる隣の席の王子様。
段々自信はなくなってきているけど、昨日までの記憶……いや、昼休み前までの記憶が正しければ。
その席はね、江藤くんっていうメガネ男子が座っていたはずなんだけれど──
て。
江藤くんは何処に行った!?
「あんたさ、本当何者? そこは江藤くんの席だったんだけど」
「江藤? あれ。昼休み中に席替えはしてないよな」
なーんてすっとぼけてみたりなんかして。
王子様──黒田太陽と名乗り私の彼氏だと宣言しやがった男子は、近場のクラスメートに問いかける。
「してないよ。てか、江藤て誰」
「江藤て江藤くんしかいないじゃん。メガネの」
「我がクラスのメガネっ子は山本さんのみだけど」
「は?」
「菜月、大丈夫? 学校のアイドル黒田氏が彼氏で浮かれるのはご自由勝手にだけど、頭まで侵されちゃったわけ? やや凄まじき黒田菌。恐るべき浸食パワー」
「俺、菌扱いか。酷いな」
ははは、とか笑う。
……笑いごとじゃない。
一体どうなってんの?