「 」の法廷




「じゃあ、な。また明日」

 と言って手を振る黒田太陽。そして完全シカトを決行する私。


 無言で玄関の戸に手をかけると、重たい溜め息を一つ残して。

 やつはとぼとぼと歩き去る。



 溜め息つきたいのはこっちの方だ。




 学校が終わって。

 逃げるように飛び出したのに、当たり前のようにこの謎の彼氏面を向ける男──黒田太陽は隣にいて「一緒に帰ろ」とシャイニングスマイルをぶちかましてきた。



 断りは即答。

 私の記憶が本当に正しければ、昨夜の傷心はまだ癒えていない。


 はい、わかりましたあーと直ぐ次の恋へ足を踏み出せるほど、私の経験値は高くないし。

 それだけ本気の、本気の恋愛だった。





 まるで、

 人物だけ交換!

 の今の大困惑な状況を更に荒立てたくはない。


 なのに。一人にしてほしいのに付いてきて。


 学校から自宅までの距離は五分程度。

 無駄にテンションを上げで話をふってきていたが、私は無言を貫き続けた。


 ……やっとこれで解放される、とほっとして。

 遠ざかっていた(否、遠ざかっていくはずだった)足音がぴたりと止まり、

 お隣さんから物音が聞こえた。


 それは誰かが帰って来た──鞄から鍵を出して、鍵を開ける──音。





「……、ま」



 まさかあああ!?


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