「 」の法廷




 私の願いは届かなかった。




「あれ?」



 早起きは三文の徳精神で、常に早寝を心がけている夕ちゃんの登校は早い。


 家と学校までの距離が遠くない私はいつもギリギリまで寝こけて遅いのだが……チャイムが鳴って先生が来て、それでも来る気配のない友人にちょっぴり心配する。



 風邪かな、などと主のいない席を見ながら、隣でご機嫌を伺うウザ王子をシカトしながら。

 出席を確認する先生の声にけだるさ全開で相づちを打って、



 ……聞き、流していたから気のせいかもしれないけれど。




「夕ちゃん、風邪なの?」



 前の席のクラスメートに問いかけた。

 嫌な予感がした。



 私の気のせいでなければ、出席欠席関係なく先生は生徒の名前を取り敢えずは呼ぶ。

 呼ぶ、はずなのに。



 長谷川夕。
 いつもならば私の前で呼ばれるはずの彼女の名前を聞いていない。




「は?」

「は? て。夕ちゃんだよ」

「誰それ」

「いやいや。冗談はいいから。夕ちゃん。長谷川の夕ちゃんだよ」




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