「 」の法廷


 待ち人──彼はそれからすぐその場所に来た。

 口に含んだ直後だから席を立つにも立てなくて、慌てて飲み干そうとした時だ。


 彼はこっちに気づいた。手を振ろうとして──その目線が私をすり抜けて、後ろの存在を見ていたのに気づく。


 振り返ると激美人がそこにいた。


 あれ?

 とか、なんで?

 とかとか。思う暇さえもない。

 その激美人な女の人は「サトシーっ」とか私のサトシを呼び捨てにした挙げ句、ええい。誰の許可を得ての行動か!

 彼に抱きついて、彼もそれを軽々と受け止めたのだ。



 ……私の目の前でだ!





「どう! これ! この展開っっ! どう思う!?」

「どう思うと言われてもねえ」



 その後は軽く修羅場だった。

 ちょっと何その女あ、のお決まり文句でくってかかり、──そうだ。これはあれである。浮気というものだ。

 自分には無縁のことだと、私たちは桃色全開だと余裕ぶっこいていたのが悪かったのかもしれないけど……


 こんな裏切り方はないでしょう?



 返ってくるのは逆ギレかもしくは開き直りか。

 ぜいはあ、と鼻息荒く構えていた私に彼は予想外の返事をよこした。



 それはもうもう心底不思議そうな顔をしながら。



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