幼なじみの執事
普通の場所
「よっ、葵衣おはよ」
「おはよ、仁。今日も持ってきたよ」
「サンキュ、お嬢様」
緑川 仁(みどりかわ じん)とは、この高校に入ったときから仲良くしてる。
あたしを【特別扱い】しない男だから、気が張らなくて楽しい。
「やっぱお前ん家のパン、めちゃくちゃ美味いな」
紙袋から取り出したパンを口いっぱいに頬張りながら、仁は笑った。
いつも余る焼きたてパンを、仁の朝食として持ってくるのがすっかり定番になっている。
「そういえば朱里のヤツ、またお前の執事の話でキャーキャー言ってたぞ」
「やっぱり?!相変わらずだよ」
「まぁ、オレたちにとって“執事”なんて縁がないから、物珍しいのもあんじゃね?」
あたしが通ってるのは、ごく普通の進学校。
お嬢様学校といわれる有名な女子高があって、だいたいパパの周りにいる人たちの娘はそこに通っている。
ただあたしはそんなレールを引かれたようなお嬢様にはなりたくなくて、精一杯の抵抗がこれだったんだ。