幼なじみの執事
「観たいのあるから、今から映画でいい?」
歩き出そうとすると、絢斗の声に引き留められた。
「葵衣様、どうされたんですか?何かあったんですか?」
振り向きざまに見た絢斗の瞳は、不安げに揺れていた。
心底あたしを心配しているのが伝わってくる。
それは執事としてなの…?
また繰り返す同じ疑問を、かき消すように笑顔を作った。
「どうして?」
「あまりにも様子が今までと違っていて、わたくしは正直困惑しております」
「ちょっと肩の力を抜いただけだよ。
それに今日は特別!だから、あんまり気にしないで」
「…そうですか」
そりゃそうだよね。
昨日まで少しだけ反発的な態度を取ってたあたしが、突然これだから驚くのは無理もない。
けれど好きだなんて絶対に言えないから、せめてこんな形でも……
「映画のタイトルなんだったっけなぁ…あっ!そうそう」
今すごく人気のある洋画のSFアクションのタイトルを言うと、絢斗の顔がパァっと華やいだ。
「わたくしも観たかった映画です」
「そうなの?じゃ、行こうよ」
本当は絢斗のことを考えて決めた映画だった。
これだけ長い間近くにいれば、好きそうな映画ぐらい分かるよ……
未来がどうなるかなんて、今は考えたくない。
ただどんな形でも
傍にいて……傍にいさせて