幼なじみの執事


「観たいのあるから、今から映画でいい?」




歩き出そうとすると、絢斗の声に引き留められた。




「葵衣様、どうされたんですか?何かあったんですか?」




振り向きざまに見た絢斗の瞳は、不安げに揺れていた。


心底あたしを心配しているのが伝わってくる。



それは執事としてなの…?


また繰り返す同じ疑問を、かき消すように笑顔を作った。




「どうして?」



「あまりにも様子が今までと違っていて、わたくしは正直困惑しております」




「ちょっと肩の力を抜いただけだよ。
それに今日は特別!だから、あんまり気にしないで」



「…そうですか」




そりゃそうだよね。

昨日まで少しだけ反発的な態度を取ってたあたしが、突然これだから驚くのは無理もない。



けれど好きだなんて絶対に言えないから、せめてこんな形でも……




「映画のタイトルなんだったっけなぁ…あっ!そうそう」



今すごく人気のある洋画のSFアクションのタイトルを言うと、絢斗の顔がパァっと華やいだ。




「わたくしも観たかった映画です」



「そうなの?じゃ、行こうよ」




本当は絢斗のことを考えて決めた映画だった。


これだけ長い間近くにいれば、好きそうな映画ぐらい分かるよ……




未来がどうなるかなんて、今は考えたくない。



ただどんな形でも

傍にいて……傍にいさせて





< 43 / 180 >

この作品をシェア

pagetop