幼なじみの執事
「葵衣様、おはようございます」
「ん〜〜」
絢斗の声に体を伸ばしながら起き上がると、ソファーの上だった。
窓からは明るい光が射し込んでいる。
「あたし、あのまま…?」
「ええ。しばらくして電気は復旧したのですが、葵衣様があまりにも気持ち良さそうに眠られてたので」
「絢斗は、寝てないの?」
「一晩ぐらい、大丈夫ですよ」
涼しげに微笑む絢斗に、ふと昨夜のことがよみがえる。
「朝食、ご用意いたしますね」
「ねぇ、絢斗…」
「はい」
振り向いてあたしの言葉を待つ絢斗に、昨日の出来事はあまりにも結びつかない。
抱きしめられていたような感触が残ってるけれど、あれはあたしの願望が見せた夢なのかな?
大好きな声が“葵衣”って呼んだのも、願いすぎて幻聴として耳に届いただけ?
そう思わせるほど、そこに立ってる絢斗は執事そのもので……
「ごめん、なんでもない」
「では、すぐにご用意いたしますので」
キッチンに向かう後ろ姿を、ただ見つめた。
万が一夢じゃなかったとしても、絢斗はきっとあの完璧な笑みを浮かべ否定する。
最初から分かってる答えを聞くぐらいなら、尋ねない方がいいよ…
執事としてでも最近上手くいってる関係が、こんなことでギクシャクするのもイヤ。
あたしはその想いをかき消すように、頭を横にブンブンと振ってソファーから立ち上がった。