幼なじみの執事
人間ってショックを受けすぎると、涙も出ないんだ。
「ハハッ……」
思わず笑いまで洩れた。
あたし…なんで絢斗には彼女が出来ないって決めつけてたんだろ。
あたしの執事でいる限り、大丈夫だなんて変な理屈で納得してた。
とにかく今はこの場にいたくない……
絢斗が千嘉さんと一緒にいる場所になんて、一秒たりともいたくないよ。
あたしは固まっていた足を動かし、行くあてもなく駆け出した。
どれだけ走っただろう…
それでも2人の影があたしにまとわりついてるようで、気持ちが悪い。
「……ハァ…ハァ…」
どんなに嘘だと思いたくても、認めた絢斗の声が頭の中を駆け巡る。
“お付き合いすることに致しました”
あたしは別に彼女でもなんでもないんだから、文句を言う権利なんてないのは分かってる。
分かってるけど、何で…?
何で千嘉さんなの?
つい4日前に看病してくれた絢斗に、強い想いを確信したばかりだったのに……