HANDS

「でも俺、『おめでとう』とか言えなくて。
へぇ~って適当に流して、こっちに帰って来たんだ」


「…うん」

虎次郎は一心不乱に毛づくろいをしている。
そう言えば、お兄さんとユリちゃんが虎次郎を飼えなくなった理由って――…

すう、と息を吸い込んで、リュウが口を開いた。


「その3日後に、…2人とも死んだ」

「……え」


だから【安らかに眠れ】ってこと…?


「兄貴のバイクで2ケツしてて、飲酒運転のトラックに突っ込まれて――……」

今にも泣きそうな表情で、視線は雑誌に落としたまま。
あたしは、かける言葉が見つからなかった。
< 143 / 192 >

この作品をシェア

pagetop