アンダンテ
「さて慶太郎。今日から夏のコンクールに向けて練習しないか?」
 いくら光邦が今日から転校してきた生徒だったとして、何故俺のクラスなんだ? お前絶対親の権力使ったろ。青い目が俺を見て楽しそうに話している。
 光邦はハーフだ。親父さんが日本人で、お袋さんがフランス人。髪は親父さんなんだが、他のパーツは見事に綺麗なお袋さんを継いでいて、男の俺から見ても本当かっこいい。この一年で更に男前になったな。
「……夏のコンクールって、軽井沢であるやつ?」
 あの一年で最も盛り上がるあれか? いや、俺に約一年のブランクがあるの分かってますか?
「そうだけど。……出ないとは言わせない」
 く、黒い……華やかな顔が一気に極道に。こ、怖い!
「でも後二ヶ月だぞ。お前は良いけど俺は」
「お前は以前一週間で曲を仕上げていたんだ。十分だろう?」
 いやだからブランクが。あ、すみませんでした。
「出るよな?」
「はい」
 いったいどこで身に付けたよその技は。留学する前より腹黒くなってないか?
 夏休み前、俺のクラスに北見光邦が編入してきた。かっこいいアイツは、休み時間になると直ぐに女子に話しかけられたけど、早く振り切って俺の所に来やがった。なんか、女子が睨んでるぞー。
 そりゃ光邦がピアノにしか興味ない事は知ってるけどさ。モテない俺としては、何か軽くジェラシー。
 光邦が言うには、俺の髪が駄目なんだとか。そうかもね。俺、中学ん時はそこそこモテてた気ぃするし。
 でもこのツンツンもみあげ長ヘア結構気に入ってるから暫くは落とさないつもり。色だけは昨日黒染めした。
「ねぇ、鳳君」
 不意に呼ばれたから振り返ったらあらま。クラスのマドンナ。光邦が話を邪魔されて少し不機嫌だ。あのねぇ。クラスのマドンナなんだから見とれる位しろよ。
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