アンダンテ
「ん?」
 いや、俺もここで見とれないんだけど。
「髪、染めたんだね?」
 マドンナは風紀委員だったっけ。それで嬉しそうなのか。今まで迷惑かけてきたしなぁ。
「あぁ、ごめん。迷惑かけた」
 俺が誤るとクラスの奴らがかなり驚いたみたいだ。そりゃそうだな。今までガンタレてたしな。
 でもそんな自分も嫌いじゃないや。ピアノやってる自分は、寧ろ好きだ。
 マドンナが立ち去った後で俺は光邦にコンクール頑張ろうと言った。今日の午後に、申込用紙を持ってアンダンテ集合。俺も光邦と一緒にいるから、前見たいに只怖がられるだけじゃなくて、ちょっとは普通に話してくれる奴も増えた。光邦って昔からそうだ。暗い場所を照らしてくれる様な、明るい光がアイツにはある。
 それはアイツが弾くピアノにも現れるから、ピアノの引き方が性格を表すってのは本当だと思う。
 光邦が言うには、俺はいつも哀愁が漂う弾き方をするらしい……複雑な気分だ。
 5限目は数学だ。もう、ピアノの事を考えると先生の話なんて耳に入ってなくて、先生が俺に質問しているのに気付かなかった。
「おおとりぃ~。聞いてるのか?」
「えっ?」
即座に黒板に書いてある問題を頭にスキャンした。よし、昨日予習した所だ。
「あ、えっと、解はχ=4の時1≦a<3とχ=7の時a≦5です」
「せ、正解……」
 あ、危ない。ちゃんと聞こう。教科書を開いたら、後ろから肩を叩かれた。光邦だ。
「あったま良い」
「まぁね」
 不良だったからってナメられたくないんでね。
「教えろ」
「……」
 光邦はピアノ以外はパッとしない。
「次転校生ー」
「えっと、χ=2……?」
「……次の人ー」
 光邦は顔を真っ赤にした。しかし、女子ならまだしも男子が数学が苦手なんて珍しいな。うん、今度数学Ⅱをみっちり教えないとな。光邦は英語が抜群に出来るんだったっけ?
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