アンダンテ
 俺達は放課後、一度各々の家に帰った。光邦は一時帰国らしいから、俺の家の近くにあるマンションだ。独り暮らしは寂しくないかと聞いたら昔からだから、とか意味深な事を言った。
 俺は一旦制服を脱いで黒いシャツとストライプのジーンズをはおった。そろそろ「アンダンテ」に行かないと。何しろ光邦は着替が物凄く早い。しかもなかなかハイセンスだ。セレブってのは皆そうなのかもしれない。
 急いでチャリを漕いだせいでちょっとだけ汗をかいてしまったから、もう夏本番だな。
 「アンダンテ」はこの前俺と光邦で中を綺麗にした。もとの持ち主が死んで間もないから、誰もまだ所有してない。中にはまだ新しいピアノが2台あった。
「ごめん、遅れた」
「ん。慶太郎は何時も5分は遅刻するから」
 そうだっけ? もしかすると俺は光邦より俺の事を知らないのかもしれない。
 しっかし、懐かしくて堪らない。本当、良くここに光邦と来たんだよ。それこそ毎日狂った様に鍵盤とにらめっこした。
 俺は今回「ジムノペディ」で勝負する。これは俺が好きな曲で、この曲でコンクールに出た時は必ず良いコンクールになるんだ。
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