霧の向こう側
プロローグ
“ギイッ……キイイッ”
霧の深い公園でブランコが錆びた鉄を擦らせて揺れていた。
“ギイッ……キッ、キイッ……”
女物の靴が片一方、無造作に転げている。
その上に湿った霧が細やかな水滴をまぶし、転がった靴を徐々に冷やしていった。
静かで、そして誰も居ないはずの公園。
─────────やっと、手に入れた。
一瞬、霧がこくなり、視界が遮られる。辺りは真っ白で何も他には見えない。
誰もいないはずだった。朝早くで日も昇らないほど暗い世界のはずである。
しかしその白い世界に、淡い燐光を放つ男が一人気配も無く立っていた。
腕にはまだ大人に成りきっていない僅かに幼さが残る少女がぐったりとした様子でその身を男に任せている。
少女の足には片方しか靴が無かった。
男は、愛しげに腕に抱いている少女を見つめていたが、スッと顔を少女に近づけると、その桜色の唇に自分のそれを重ねた。
「……愛してる。君とならば眠れそうだ」
腕の中のその存在を確かめるかの様に、男はもう一度、瞳に少女を映した。
“ギイッ……キイイッ”
霧の濃度が益々厚くなり、少女を抱いた男の姿を視界から消していく。視界が完全に絶たれて、まるっきり彼らが見えなくなった時、何処からともなく少し錆びれたブランコが揺れる音が聞こえてきて、それを自覚すると共に、霧が薄らいで行った。
“キイッ……キイイッ”
霧に隠された公園が再び目の前に現れてくる。
“キイッ……キッ、キイイッ……キイッ”
さきほどまで男がいた場所には誰も居らず、足跡すら見当たらない。
“キイッ……キッ、キイイッ……ッ。”
ブランコの揺れがフイに止まる。
霧がそれを境に徐々にその姿を消していき、それと共に辺りをぼんやり照らしていた電灯が自分自身の光を吹き消していった。
ダークな色に染まっていた景色を塗り替える様にして、暖かなオレンジ色を代わりに与え、その度に空の色が段々優しく成って……そして、夜が明けた。
霧の深い公園でブランコが錆びた鉄を擦らせて揺れていた。
“ギイッ……キッ、キイッ……”
女物の靴が片一方、無造作に転げている。
その上に湿った霧が細やかな水滴をまぶし、転がった靴を徐々に冷やしていった。
静かで、そして誰も居ないはずの公園。
─────────やっと、手に入れた。
一瞬、霧がこくなり、視界が遮られる。辺りは真っ白で何も他には見えない。
誰もいないはずだった。朝早くで日も昇らないほど暗い世界のはずである。
しかしその白い世界に、淡い燐光を放つ男が一人気配も無く立っていた。
腕にはまだ大人に成りきっていない僅かに幼さが残る少女がぐったりとした様子でその身を男に任せている。
少女の足には片方しか靴が無かった。
男は、愛しげに腕に抱いている少女を見つめていたが、スッと顔を少女に近づけると、その桜色の唇に自分のそれを重ねた。
「……愛してる。君とならば眠れそうだ」
腕の中のその存在を確かめるかの様に、男はもう一度、瞳に少女を映した。
“ギイッ……キイイッ”
霧の濃度が益々厚くなり、少女を抱いた男の姿を視界から消していく。視界が完全に絶たれて、まるっきり彼らが見えなくなった時、何処からともなく少し錆びれたブランコが揺れる音が聞こえてきて、それを自覚すると共に、霧が薄らいで行った。
“キイッ……キイイッ”
霧に隠された公園が再び目の前に現れてくる。
“キイッ……キッ、キイイッ……キイッ”
さきほどまで男がいた場所には誰も居らず、足跡すら見当たらない。
“キイッ……キッ、キイイッ……ッ。”
ブランコの揺れがフイに止まる。
霧がそれを境に徐々にその姿を消していき、それと共に辺りをぼんやり照らしていた電灯が自分自身の光を吹き消していった。
ダークな色に染まっていた景色を塗り替える様にして、暖かなオレンジ色を代わりに与え、その度に空の色が段々優しく成って……そして、夜が明けた。