霧の向こう側
辺りは霞む様にうっすらと、霧が立ち込めていた。
 気が付くと、目の前の青年と少女以外の子供達は、掻き消えた様に居なくなっている。 あんなにドタバタ騒がしくあたりを駆け回っていた子や、楽しそうに砂場で遊んでいた子、かごめかごめをしていた子全てが、申し合わせた様にその公園から消えているのだ。
 加奈子は、公園がすでに月明かりと所々に灯っている電灯の明かりが辺りを照らしているのに気付いた。
 そろそろ自分も帰らなければ成らない事も自覚しているつもりである。
 手元にあった夜食のパンも、お菓子やジュースも底をついていた。
 加奈子は思い切って立ち上がると、手元のゴミをベンチの近くのクズカゴに何気なく放り込んだ。
「かーえろ、帰ろう」
 決して大きな声だったわけではない。
 加奈子は呟き程度のつもりだったのだ。ゴミがクズカゴから外れたのでそれを拾い、改めてカゴの中へ捨てた。そして、帰ろうと思って学生鞄を手に取った時、背後で声が聞こえた。
「お姉ちゃん!」
 それは予想もしない声だった。
 背筋が寒くなるほどびっくりしたのは言うまでもない。
 振り返ると、ブランコの方で少女が手を振っていた。そして、少女の横に立つ青年と初めて目が合った。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop