霧の向こう側
アイスクリームを食べながら、ベンチに掛けて、たあいない会話を展開する。
 女の子だったら良くする話……例えば洋服の話や町で見かけた男の子の事、今度の日曜日に何をするかとかその類である。そんな事を飽きる事も無く楽しげにクスクスと笑い声を上げながら話していたが、それもそろそろ尽きて、明日また会う約束をお互いに交わし、友達と別れたのだった。そして、それぞれが改めて帰宅の路に着いたのだが、加奈子だけ違う様子を見せた。何故ならその遊園地の出口で声をかけられたのだ。
 これが、これから起こる奇妙な出来事の前触れだったのかも知れない。
加奈子は、確認するように名前を呼ばれたので、驚いて振り返った。
 すると、この遊園地で占星術をしている占い師の“お爺さん”がその場に立っていた。
「……えっ?どうして、私の……」
 彼は、老人特有の柔らかな笑顔を浮かべて、加奈子の問い掛けを視線で止めた。
「私はもう随分、人を見てきたからね。雰囲気で判るものだよ」
「…………」
 加奈子は、老人のその言いように、奇妙な表情を浮かべる。
 そして『そんなものかなぁ』とでも言わないばかりに首をひねった。
 老人はそんな加奈子にはまるで頓着する事も無く、言葉を続ける。
「貴女の星が変わった輝き方をしている。今日は人通りの多い所をなるべく選んで帰りなさい」
「……どうゆう事?」
「いいね!?」
 老人はそれだけいうと、肩を軽くポンポンと叩いて、じっと加奈子の瞳を見た。そして、何事も無かった様にその場を去っていった。
 加奈子は少し気味悪く思ったが、それをどうこうしようとする気持ちはまるで無かった。
 何故なら加奈子自身、占いという不安定で曖昧な物をまるっきり信用しないたちだったのだ。だから、老人の不思議な忠告を無視して、いつも通りの道順を追って、家路に着いた。先に帰ってしまった友人二人同様。
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