霧の向こう側
加奈子は、その少女に対して何か妙に懐かしい物を感じ取った。それは、一瞬だけであったが、それは十分、公園の中へ入る動機につながった。
 加奈子は少女につられる様にして、公園へ足を踏み入れる。
 加奈子はそこで、一人の青年と楽しげに遊ぶその少女の姿を見いだした。よく見ると、その少女は、左右のおさげに幅のある青い透ける様なリボンをしていた。
 少女はマリをつきながら童謡を口ずさむ。
 動作が一つ一つ変わるたび、風にあおられる様にして、ふわふわとそのリボンが揺れた。
 マリがリズムを取っている様に、その少女の幼げな高い声が人を聞き入らせる。この年齢の子の持つ独特の魅力だった。
 青年にとっても同じらしく、とても優しげな表情でその少女を見ている。
 加奈子は兄妹かなっと思った。『仲のいい兄妹だなぁ』と思いながら、もうちょっと見ていたいと思い、自分の回りを見渡すと、手頃な所にベンチがあった。丁度よいと思い、学生鞄をそこに乗せると、夜食が入っている袋を取り出した。
加奈子の回りは公園独特のざわめきに包まれている。
 静かな様でそうでなく、あちこち人々がお喋りをしていても気に障ることもない。
 加奈子の腰掛けているベンチからそう遠くない所で数人の子供がかごめかごめをしていた。砂場では仲の良さそうな二人の男の子と一人の女の子が、砂の山を作っている。持参したカラフルなプラスチック製のショベルが印象的だ。
 そこからちょっと離れた所で、わあわあいいながら小学生くらいの男の子達が追いかけっこをしていた。
 もうすぐ日没である。
『なんで、この子達の親は心配しないのだろう』と思いながら、加奈子はガサガサいわせてビニール袋を破ると、カレーパンを取り出しかぶりついた。
 そんな時、さきほどの少女と青年の会話が耳に入ってきた。
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