泡姫物語
私が話し掛ける前に藤田さんが口を開いた。

「最初に部屋へ入った時に気がついたんだけど、あのブタのボトルは君の私物なのかな?」

彼は部屋の片隅の小さな棚に置いておいたボトルを指差して尋ねた。

愛子に貰ったそのボトルはなにか惹かれるものがあり、中身が空の状態だったのだがすぐに使いたくてボディソープの詰め替え用を買ってきて準備しておいたのだ。

「そうなんです。今日デビューしたばかりなんですよ。私ブタのキャラクターが好きで集めてるんです」

「へぇ。奇遇だな。実は僕もブタが好きなんだ。君とは理由が違うだろうけど、僕はデブだから親近感があってね」

――まさかこんなところで共通点が見つかるとは思いもよらなかった。

愛子、ありがとう。
ピンクのブタは早くも効果抜群だよ。

「私はあのぽっちゃりして可愛い感じが好きです。すごく癒されるんです」

そう言うと藤田さんが安心したような顔をしてこう言った。

「よかった。君とは気が合いそうだ。実はね僕は見た通り独身で彼女もいないから、たまにこうやって綺麗な女の子と会話するのが好きなんだ」

未婚で、彼女いないんだ。
よかった。

「じゃあ私の他にもお気に入りがいたりして?」

いたら嫌だなと思いながら聞いてみた。

「うん。実はいたんだけど、今まで会っていた子が(ソープを)卒業しちゃってね。それから何人か会ってみたけどなかなか話の合いそうな女の子に出会えなかったんだ」

要は今はお客様としてもフリーっていう意味だから私だけのお客様になって貰えるチャンスだ。

普通、どうやったら付き合えるか考えるのはお客様側なのに今は私が本気になってる。変な感じ。

そのあと少し他愛のない会話をして終了時間になってしまった。

いつもは計算し尽くして時間ピッタリに部屋を出るのだが今日は話に夢中になって、危うく時間オーバーするところだった。
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