泡姫物語
私の気持ちなんて気付く素振りもなく、修君が誘導尋問を始める。

「誰?愛子も友紀みたいにお客さんに恋してるとか?」

「それは友紀が特殊なだけで基本的にありえないから!」

好きな人を目の前にして『あなたが好きです』とは言えないけど誰かほかの人を好きだと勘違いされるのは告白するよりもっと困る。
ましてお客さんとだなんて思われたくなくて必死に否定する。

「あ、じゃあ美容師の阿部さんってひと?」

「阿部さん?彼は素敵な人だけど違うよ。それより何で知ってるの?」

「この前友紀んちでさ、愛子が寝た後ふたりで少し話していたんだ。それで、友紀お気に入りのカリスマ美容師がいるって言ってたからさ」

あ、そうか。私あの日先に寝ちゃったんだった。
今思うと勿体無いことしたな。

「阿部さんも違うのかぁ。じゃあ俺の知らない奴なのかな」

「そう言われるとなんて答えたらいいのか……」

もう、嘘をつくのも嫌で今言っちゃうのもためらって、どう切り返せばいいのかわからない。
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