泡姫物語
「その人がお店を辞めてからはつまらない日々が続いた。僕にとって吉原は身体的な欲求を満たすためのものじゃなく、日常とは隔離された特殊な空間でひとときの現実逃避が出来ることが魅力だったんだ」

当時のことを思い出しているからか、少しため息をついて話を続けた。

「お仕事をする女の子達を恋人だと錯覚するようなことはないけど、なかなか自分らしく本音だけでは生きていけない日常生活の中で羽を伸ばしてくつろげる唯一の場所なんだ。周りに言わせたら虚しい男だけどね」

「私はそんな風に思わないですよ。私にとっても特殊な空間で、お仕事とはいってもこんなにたくさんの見ず知らずの方々と出会える場所なんてなかなか無いですから」

「君とはとても相性がいいみたいだね。僕は君と居ると落ち着くし、何でも話せる気がするよ。今まで出会った女性の中で一番素敵だよ」

その言葉は、我を忘れて飛び上がってしまいそうになるほど嬉しくてたまらなかった。
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