泡姫物語
「蘭さん、百合さん、お客様が到着されたのでよろしくお願いします」

ドレスに着替え、ちょうど準備が出来た時に指名が入った。

「はーい」

私たちは口を揃えて返事をし、それぞれにお客様を迎えた。

この店では1階のエントランスでお客様と顔合わせをし、螺旋階段で2階か3階のお部屋へとご案内する。

部屋は当日出勤した時にランダムに割り当てられるシステムで、自分で用意したボディーソープや入浴剤など接客用の道具は部屋に置いておく。

部屋の広さや設備もお店によって異なるが、ここではセミダブルくらいのベッドにふたりで入っても余裕のあるお風呂。それにソープ特有の道具などが一式揃っていて、ラブホテルを簡素化したような内装になっている。

いつものように先にお湯を出して入浴剤を入れ、鏡で身だしなみチェックを終えてエントランスへ向かうと先に百合が準備を終えて下りていた。

先に百合がお客様を部屋へ案内したあと、私の番がきた。

まずは深くおじぎをしながら「いらっしゃいませ」と言ったあと顔を見て「ご案内いたします」と、自慢の癒し系営業スマイルでお客様の心を掴むのが私の得意技。

ほとんどの男性は第一印象で私に好感を持つから接客しやすくなる。

いつものように挨拶をし、お客様の目を笑顔で見つめる

……つもりだったんだけど。

「はじめまして。よろしくね」

まいった。私のほうが一目で落ちてしまった。

目の前のお客様は私の理想そのものだった。

驚きと動揺で一瞬、友紀に戻りかけたが心の中で(今は蘭。友紀じゃない)と自己暗示をかけて何とかお部屋へご案内した。

平常心を装ってはみたが、すごくドキドキしてる。もしかしたら顔も赤いかもしれない。

いつもの蘭はちょっと高嶺の花みたいなイメージを持たれる綺麗なお姉さんタイプだけど、今は頭が真っ白で普段どうやって接客してきたのかうまく思い出せない。
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