泡姫物語
空しい気持ちになるのはこの仕事をしている以上仕方が無い。
それより店外デートに誘ってくれることを喜ぼう。
そして、お店とは離れた花火大会という恋愛にはピッタリのこの場所で、もっと距離を縮めよう。

「じゃあ私から店長に言っておきます。そのほうが話が早いので」

「そうか。じゃあお願いしようかな」

「あとでメールで当日お店に来てもらう時間などお知らせしますね」

晴れるといいね、なんて会話をしているうちに時間がきて藤田さんは帰っていった。
藤田さんを見送った後すぐに土曜日の貸切の予約を店長に伝えた。

帰りのタクシーの中、愛子に報告をすると満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ浴衣着て行かなきゃね!私、着付けするよ」

「浴衣かぁ。コイツ気合い入りすぎって思われないかな」

「あはは、そんなことないって!友紀は浴衣が似合うからきっと惚れちゃうよ」

家には浴衣がひとつだけある。東京に来て最初の夏に愛子と夏祭りに行くために買ったもので、紺色の中に大きくて鮮やかなオレンジ色のひまわりが描かれている。
今は赤や水色やピンクなど可愛い浴衣がたくさん出回っている中で、その渋い浴衣に一目惚れして即決した。

「ヘアメイクは阿部さんにお願いしちゃおうよ」

「……うん、そうだね!曲がりなりにも初デートだし、このチャンス逃せないもんね」

こんなことのためにわざわざヘアメイクまでするのは大袈裟すぎるんじゃないかとも思ったが、この際はりきってデートしちゃおう。

阿部さんにヘアメイクの予約をするのも藤田さんにメールをするのももう遅い時間なので明日にすることにした。

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