泡姫物語
花火開始の時間が近づき、部屋に料理が運ばれてきた。
見慣れないフレンチのフルコース。テーブルマナーはたしなんでいるが少し緊張する。

「なんだか和服のふたりに似合わない食事だね」

そんな皮肉っぽい冗談も交えつつ、グラスにシャンパンを注がれた。
ガラス張りの窓際のテーブルに向かい合って座り、シャンパンで乾杯をした。

「藤田さん、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。君との出会いに乾杯」

グラスを軽く触れさせた瞬間、花火が始まった。
今まで色んな花火を見てきたが、人混みを気にせず、みんなより高い場所で落ち着いて見るのは初めてで、お金持ちのお嬢様にでもなった気分。

花火に見とれながら美味しい食事をする。目の前には理想の男性。
こんな完璧な状況で、なぜ私たちは恋人同士じゃないのだろう。

お客様とソープ嬢。これは事実上はお仕事の関係。恋愛じゃない。恋愛ごっこ。

なんとかこの壁を乗り越えられないものか。
いっそ今ここで告白してしまおうか。
いや、それでうまくいかなかったらもう会えなくなる。
アタックするとは言ってもすぐに結果を出そうとしたりすることが恋愛成就に繋がるとは思えない。焦っちゃダメだ。

どうか、また来年も藤田さんと同じ光景を見られるようにと今日の花火に祈った。
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