泡姫物語
そのあと彼は続けてこう付け加えた。

「さすが人気姫だね」

「……ありがとうございます。嬉しいです」

自分だけ勝手に舞い上がり、周りが見えなくなっていたことに気がついた。

藤田さんは、私のことを蘭として、お店の女の子として会いに来てくれたんだ。

これは恋愛なんてありえない、お仕事と遊びの関係。

時々遊びだということを忘れて本気で女の子を好きになってしまう困ったお客様がいるが、彼は遊び方をちゃんと知っているような感じで、私たちの目線で言うならいいお客様。

藤田さんなら一線越えてきてくれてもいいのにな。
せっかく理想のひとに出会えたのに彼が気に入ったのは蘭だなんて。

――あれ?理想のひとって……

昨日の決意を思い出した。

『次理想のひとに出会えたら全力でアタックする』

私は昨日22歳の自分に別れを告げ、23歳の自分に誓ったんだ。

前向きに考えよう。

前田さんはお客様として蘭に会いに来てくれたけど、私の事を気に入ってくれたのは事実。

それならば今はお店の子とお客様という関係でもいいからもっと仲良くなろう。
この滅多にないチャンスに感謝しなきゃ。
私は気持ちを入れ替えた。
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