眠りの森
エメラルドグリーン
「ごめんなさい。」
 お皿を洗いながら、わたしはアルジャンさんに謝る。するとアルジャンさんは不思議そうな顔をした。
「何が?」
「だって・・・。わたしのせいで、あなたを引き止めてしまって。」
 アルジャンさんは旅の剣士だった。なのに、わたしのせいで引き止めてしまって。
 なのにアルジャンさんは嫌そうな顔一つしないでわたしと一緒にお皿まで洗ってくれている。
「気にするなよ。だって、友達助けたいんだろ?」
 わたしは頷く。だけど、アルジャンさんには全然関係のない話。
「ごめんなさい――。」
 もう一度、わたしは呟いた。消えてしまいそうに小さい。
 だけどアルジャンさんは首を振る。
「俺は」
「アルジャぁン。」
 アルジャンさんが何か言おうとするのを遮ってリンナさんがあらわれた。アルジャンさんの表情に怯えが走るのは気のせいなんかじゃないと思う。
「フィーネのぉ、手伝いがぁ、終わったらぁ、あたしのぉ、部屋にぃ、来なさぁい。」
 アルジャンさんは顔をしかめたまま答えなかった。だけどそんなアルジャンさんを気にしないでリンナさんが私を向く。
「フィーネもよぉ。」
「はい。」
「アルジャンのぉ、利用方法をぉ、教えてぇ、あげるぅ。」
 利用方法。一体何のことだろう。
 わたしは首を傾げたけれど、リンナさんは笑っているだけだった。
「それじゃあぁ、おやつもぉ、持ってきてねぇ。」
「わかりました。」
 わたしが返事をすると、満足そうな顔をしてリンナさんは出ていく。
 と、アルジャンさんがわたしに近寄ってきた。
「怖くねぇの?」
 何を言われているのかわからなくて、わたしは首を傾げた。そうするとアルジャンさんはさらに声を小さくする。
「リンナさん。一緒にいて平気?」
「リンナさんは――、優しい人です。」
 その声は頼りなかったのかもしれない。アルジャンさんは変な顔をする。
 でも、リンナさんがいい人だってアルジャンさんに伝えたくて。わたしは一生懸命言葉を選んだ。
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