眠りの森
鳥篭の少女
「フィーネぇ。」
 ねっとりとした口調。最初は嫌だったけれど、もう聞きなれた。リンナさんがわたしの部屋で、わたしのベッドに座っていた。
「あのねぇ、お使いに行ってきてくれるぅ?」
 わたしは頷く。タダでご厄介になっているのだから、それくらいしなければいけない。
「助かるわぁ。あのねぇ、ザインの雑貨屋でぇ、《月の雫》をぉ、買ってきてほしいのぉ。」
「つきのしづく?」
 わたしが言葉を反芻するとリンナさんは頷く。
 そしてなぜだか、わたしを抱きしめた。
「フィーネはイイ子ぉ。お願いねぇ。」
「はい。」
 わたしはクローゼットの中から一番大きいバッグを取り出した。どんな大きさのものかわからないからだ。
 するとリンナさんはころころと笑い声を上げる。
「そんなにぃ大きくないしぃ。」
 わたしはそれをまたクローゼットに押し込む。
「いっつもので構わないわよぉ。」
 リンナさんがそう言ったので、わたしはいつものバッグを取り出した。おじいちゃんが町で買ってくれた真っ赤なバッグ。手入れはしているのだけれども、汚れていてぼろぼろだった。
 でもこれは大切なバッグだ。おじいちゃんが最後にわたしに買ってくれたものだったのだ。貧乏なのに、わたしの12歳の誕生日に有り金を叩いて。
「ザインにぃ、よろしくねぇ。」
 こくりとわたしは頷く。それを見るとリンナさんはわたしのベッドに寝転がってしまった。と、すぅすぅという寝息が聞こえる。
 リンナさんはこんな性格でも、とてもすごい魔法使いらしい。わたしには何にもわからないけれど。その上とっても綺麗で、ナイスバディで。
 なのにどうしてわたしなんかを引き取ってくれたのだろう。
 おじいちゃんが死んだ夜、彼女はあらわれた。あのねっとりした口調で、一緒に住むと勝手に決め付けていて。
 リンナさんはとっても変わり者だ。だから、家も森の中にある。ザインさんのお店に行くのも一苦労だ。だからリンナさんはお使いを全てわたしに行かせたがる。
 わたしたちが住んでいる森は、とても危ないらしい。だから町の人たちは近づかない。
 だけど。リンナさんはとてもすごい魔法使いで。わたしには精霊の守護がある。
 わたしは《精霊視》を持っている人間だった。精霊が見えて、その守護も受けられる。
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