眠りの森
 そんなわたしとは別に、少女は全く疲れていない様子で微笑む。
 ありがとう、と言われたことが嬉しくて、わたしは微笑んだ。顔の筋肉と心臓が痛い。
「でも、どうして――?」
 少女が不思議そうに問う。それはわたしだってわからない。さっき会ったばっかりなのに。
 でも、たぶん、理由があるとしたら。少女があんまりにも綺麗で。
「わたしに微笑んでくれたから。」
 言ってしまってわたしは真っ赤になった。恥かしい。
 でも、少女は笑う。ころころと、楽しそうに。
「いい人!」
「ありがとう。」
 少女が笑っている。それを見ていると、わたしまで楽しくなった。だから、一緒に笑ってしまう。
「ふふふ!」
「あははは!」
 こんなに笑ったことなんてあったのかというぐらい。わたしは笑っていた。
 勝手に涙が出てくる。お腹が痛くなって顔の筋肉も痛い。でも笑うことをやめられない。
「名前は?」
 ひとしきり笑って、少女が声を震わせながらわたしに問う。
「フィーネ!」
 わたしの声は震えるに加えて、言葉にすると大きく響いた。
「私はユーファ。」
 ユーファがわたしに手を差し出す。わたしはその手を握った。
 するとさらに強い力でユーファはわたしの手を握り返す。
「仲良くしてね。」
「わたしの方こそ――。」
「フィーネぇ。」
 リンナさんの声が聞こえた。そんなに遅かったから心配されてしまったのだろうか。
 声の方に向くとたくさんの男の人が、リンナさんの後ろにいた。さっき見た2人の大男も。
「なんだかぁ、たくさんのぉ、お客さんがぁ、いるんだけどぉ。フィーネぇ、どうしてぇ?」
 逃げなければ。わたしはユーファの手を強く握った。
 だけどフィーネは。
「――ありがとう。」
 わたしから手を離した。
「ユーファ様。」
「わかってんだよ、このタコ。」
 ユーファからは想像もできない暴言。
「さようなら。」
「待っ――!?」
 わたしが追いかけようとすると、リンナさんがわたしの腕を掴んだ。
「リンナさん!」
「ご迷惑おかけしました。」
 頭を下げるユーファ。
 わたしはそれでも手を伸ばす。その手は、空を切っただけだったけれども。
「友達に――!」
 友達になりたい。もっと一緒にいたい。
「友達なんかじゃないよ。」
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