消えた願望
「あの子はあたしをかばって皮膚を切られたんだ。まだ小学校入る前だよ。怖くて痛い筈なのにね。血を流しながらあたしを助けるんだ。それで警察と救急車が来て奴は逮捕。清春は病院で…縫ったんだけど泣かないんだよ。それどころか、お母さんが切られなくて良かったって…ちっちゃい子がだよ」 「…っ」 「だからハンパじゃなく強いと思うよ。心がね。あんたの事もきっと守ってくれる。大丈夫結婚しな。後は…もうちょっと売れればねぇ!」 「ちょっと母ちゃん!何話してるかと思えば。徐々に仕事増えてるだろぉがあっ」 「あっそう。じゃあたし帰るからゆっくりしてってね」 「あ…はい」 「僕の愚痴だろ?」 「いや…」 あぁ……深い。この人は…全くもってかなわない。深いところで身も心も傷付いた上でのいつもの笑顔なのか。なんて…私は薄っぺらい。ずるい、情けない…こんな私がこの人に何が出来るだろうかー。 「…どうしたの蘭ちゃん。疲れた?お布団に横になる?」 「私どうしよう…」 「なっ何に困ってるの、何でも言ってよ」 「何でそんなに助けてくれるの。私なんて清ちゃんの為に何にもしてないっ…」 「そんな事ないよ、だって…蘭ちゃん僕の事好きですか」 「…………………好き」 「それだけで幸せだから…蘭ちゃんがいるから強くなれるんだよ」 「清ちゃん」 「…結婚しよ。結婚にこだわってる訳じゃないけど家族、家庭を作ろう。蘭ちゃんがずっと居られる場所。そしてまた僕もずっと居られる場所。だから…結婚しよう」 「…はい」 「良かったぁ…!ね…母ちゃんも大賛成だし、蘭ちゃんの親には…僕から言うよ」 「ありがとう…」 「あーなんか良かった。ホッとしたらお腹空いたね」 「何か作りましょうか」 「たいした食材無いけど、蘭ちゃんお料理上手いからね」