消えた願望
蘇る願望
その火曜日を待たずに実家から電話が入った。ずっと入院していた祖母が急に亡くなったとの事ですぐ帰るようにと。父に会いたくなかったがしょうがなく帰る事にした。 「今清ちゃんは仕事中だからメール入れてと。ん?実家の方でも火曜深夜に放送するのかな?録画しとくか」 新幹線で一時間。家から逃げ出して初めての帰省。姉と二人で裏方にまわり忙しく動いていた。次から次とやる事はあるので父と顔を合わせなくてもよかった。葬式も終わり香典の整理を任されていた私は二階の和室で一人整理していた。静かで暖かい陽射しが注ぎ込む中、ギシッ…と階段を上ってくる足音が聞こえた。母か姉だろうと気にせずテーブルに向かっていた。 「疲れてないか?」 ビクッと体が硬直した。父だ。息苦しい。何か用事があるなら早く言ってくれ。 「返事くらいしなさい」口まで硬直して息をしているのが精一杯だ。誰か来て、でなければ… 「こっちを向きなさい!」 そう怒鳴りながら私の腕を掴んだ。その瞬間ー。 「触るな!」 と私は腕を振り払った。ん?触られた腕が異様に気持ち悪い。何かが並々と沸き出してくる。なんだ?この懐かしい、おぞましい感覚は。私は台所へと走り始めていた。手すりにつかまり階段を駆け降りる最中、ものの20秒くらいだろうが物凄い勢いでいろんな事を思い出してしまった。家族で海に遊びに行った。楽しい筈の海。私は泣き叫んでいる。いやだ、ごめんなさい、ゆるして。崖の上、父は私を抱きかかえ海に放り投げようとする。怖くて泣き叫ぶ。うすら笑う父の顔。私の叫びは波の音がかき消し誰にも届かない。手が熱い。今度はリビングにいる。私はまた泣いている。やめて、熱い、怖い。タバコの煙りの向こうにうすら笑う父の顔。恐怖におののき泣き叫ぶのを楽しんでいる。今度はベットにいる。私は横になっていて父はベットサイドに立ち何か手に持っている。薬…それから…ここで台所にたどり着いた。父も追い掛けて来ていたようだ。私は包丁を掴んだ。一分一秒も待てない。死ななければ。これ以上思い出してはいけない。子供の頃死にたかった理由を思い出してはいけない。その為に。 「助けてーーーー!!!!!」