消えた願望
「電話したらお姉さんが出て彼女が大変だぁーってオロオロしてるから早く行けってけ飛ばしてやったよ」 「はぁ…」 「お前が泣いてどうすんだ?彼女一人守れない男に育てた覚えはないよ。あら、騒いじゃってごめんなさいねぇ。ごゆっくり」 「お母さんも来てくれたんだ…」 「ゴメン!心配だからって…それでね」 「ん?」 「僕がそばにいて、ずっと守っているから……僕の為に生きてくれませんか」 「…」 「えぇー」 「…こんな私なんか…」 「蘭ちゃんだけです。僕は…」 「…」 「どうしても一緒にいたい」 「…これ高そう。清ちゃんお金無いのに」 「あーテレビ見てくれなかったね?」 「ええっ、もしかして」 「そう、なんと優勝しまして半分は母ちゃん、半分はコレ(指輪)になりました。ニッ」 「すごい…綺麗…」 「貰ってね」 「いいのかな…」 「いいんだよ。グスッ」 「また泣く…」 私に指輪をはめて清ちゃんは仕事しながら私の傷が治るのを待っていた。あれ以来父は私の前に顔を出さない。出してもらっても困るが周りが気を使っているようだった。傷さえ治れば早くここから離れたい。許される事ならば…二度と父には会わず、無関係になって清ちゃんと…生きたい。いいんだろうか?親をないがしろにして無いものとして生きていってもいいんだろうか。みんななんとなくヤバいところを見て見ぬふりをしたままの家族を、捨ててもいいんだろうか。 いいんだきっと。家族だけが真実の愛を持っている訳じゃない。完璧な人間なんていないんだから。人を許すという事がとても大切と言うけれど、そんな事は出来ない。だからこのまま前向きに生きていくには、私はあんな人間にはならない。悪い例だ。それでいいんじゃないかな。