秘密~「ひみつ」のこと
嗚呼、なんてこと!

この子はそんな「ひみつ」を、
一人
胸に秘めて、
苦しんできた?

苦しみながらも、
あたしに
笑顔を向けてきたっていうの?

誰が、
和徳に「ひみつ」を漏らしたの?

「お父さん?お父さんから聞いたの?」

身体の底から、
憎しみがこみ上げてきた。
誰かを憎むことで、
自分の過ちから目をそむけられるなら…

「違うよ、偶然、知ったんだ…」

母さんは憶えてないんだ、あの夜のこと…

「誓って、父さんからじゃない!信じてよ!俺、誰も悪者になんかしたくないんだ!」

必死に訴える和徳。

嗚呼、
あたし、
また過ちを犯すところだった?
この子が望んでいるのは
あたしの憎しみの心じゃない?
あたしの…

「嗚呼、ごめんね、和徳…母さんが悪いの、母さんが…」

「俺、最初はショックだったけど、今はもう気にしてない。だって、俺達、家族だろ?母さんと父さん、兄貴と俺」

「家族…」

見せかけの家族?

「だから母さん、死にたいなんて、もう言わないで!」

「そうね、ごめんね…」

家族?
そんな入れ物、
あたしには不似合い…

「父さんだって、凄く心配してたよ、母さんのこと。兄貴もさ」

心配?
正徳さんが、
あたしを心配してた?

「みんな、母さんがいないと駄目なんだ」

正徳さんも、
あたしを必要としてる?

「本当に?母さんを待っててくれたの?」

「そうだよ、当たり前だろ?家族なんだから!」

涙が止まらない。

こんなあたしに、
そんな優しい言葉、
相応しくない…


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