秘密~「ひみつ」のこと
12月5日、
予定日を一日過ぎた翌日明け方、
陣痛が始まった。

隣に眠る翔一さんを起こす。
良かった、
今日は土曜日、
翔一さんがお休みで…

「病院に行かないと…」

「うん、入院の準備はしてあるから…次に陣痛きたら、間隔計って、病院に電話する」

なんか、
翔一さん、
いつもと違う。
ちょっと、
慌ててる感じ。

「俺、こういうのって始めてだから、なんか慌てるよ…」

「翔一さんでも慌てること、あるんだね」

「当たり前だろ、子供が生まれるんだぞ!」

「つっ…」

また陣痛が襲ってきて、
あたし、
翔一さんと病院へ向かった。

病院の出産準備室で、
狭まる陣痛の痛みに耐えるあたしを、
翔一さんは手を握りながら
ずっと励ましてくれた。

破水。

あたし分娩室へ連れていかれた。

「ご主人、立ち会われますか?」

「勿論!」

翔一さん、
ずっと付いててくれた。

「ほら、もう頭見えてますよ、思い切りいきんで!」

「うぅ~ん」

するっと、身体が軽くなる。
生まれた?

「出てきましたよぉ、元気な男の子ですよぉ」

「ふぎゃ」

お腹の上に赤ちゃんが乗せられた。
白い皮に覆われた、赤い塊がくしゃくしゃと動く。

「翔?」

そっと頭を撫でる。

「唯、よくやった!」

翔一さんの優しい顔が目に入った。

「さぁ、ご主人は外でお待ちいただけますか?奥さんはまだ後産がありますから。赤ちゃんもお湯をつかわせて綺麗にしましょうね」

「あの、でも、僕はまだ家内と一緒に…」

「これからいくらでもご一緒にいられますから…」

翔一さんは、名残り惜しそうに、看護婦さんに追い立てられて分娩室を出ていった。
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