秘密~「ひみつ」のこと

父 翔一

唯を初めて見た時、
本当に、
飛んでいきそうに見えた。

飛んで、
消えていってしまいそうな、
寂しい横顔。

思わず腕を掴んだ。

あの瞬間から、
唯に、
惹かれていたんだ、
と思う。

あの夜、
唯の部屋で、
唯が眠っている間、
いけないとは思いながら、
色んなものを手にとって見てしまった。

本棚にあった、大検の参考書。

手垢でよごれ、
余白にはびっしりと書き込みがしてあった。

心理学の本。

シュタイナー、
ユング、
フロイト…
これらも何度も読み返したあとがあった。

机の引き出しには、
預金通帳と写真。

通帳は一万円単位で預金され、
二百万ほどが貯まっていた。
でも、
引き出した後はひとつもなかった。




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