秘密~「ひみつ」のこと

唯 ユイ

父はあたしが10歳の時に蒸発した。

理由は分らない。

それからずっと、
母と二人。

母は生活のため、
夜の街へ勤めに出た。

「昼間はユイちゃんと居たいしさぁ」

夕方、
キッチリと化粧をして、
派手な服に身を包み、
香水の匂いを
部屋中に残して、
母は仕事へ出かけて行った。

夜中の2時過ぎ、
覚束ない足取りで、
母が仕事から帰ってくる。

それでも、
母は、
朝の7時に起きて
あたしの為に
朝食の用意をしてくれた。

ハハ、まさか!

勿論、そんな母ではなかった。

「いってらっしゃ~い」

寝床から聞こえる、
甘だるい母の声、
寒気がした。

中学の入学式、
母は、
ゴテゴテに化粧をした、
道化のようだった。

母は、
もともと丸顔で、
髪も太くゴワついていて、
体系も太めだった。

それを隠すため、
厚化粧して、
髪を明るく染め、
胸の大きく開いた
ヒラヒラの派手なドレスで身を隠した。

あたしは、
母の、
ふくよかな笑い顔が好きだった。

白い、
フワフワの手が好きだった。

そんなかっこ、
止めて欲しかった。




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