迷子のコイ
「・・・オマエのせーなんだよッ!」


タカくんはユラユラと歩きながらこっちに来る。


「・・・オマエのせいで、
 オレはサッカーもやめなきゃいけなくなったんだよ!」


「・・・!!」




―――――――とっさに、
あたしは佐伯くんの力強い腕に抱かれていた。

けれどその力強い腕は
すぐにあたしの体をすり抜けた・・・。


苦痛にゆがむ、カレのカオが
スローモーションのように、過ぎていく・・・。




ドサッッ・・・と、
カレはあたしの目の前で崩れ落ちた。


「・・・さえき・・・くん?」


痛みに苦しみながら倒れた
カレの腰のあたりには
銀色に輝くナイフが突き刺さっていた。




「は・・ははっ!
 ざまぁみろっっ!!」


狂気に満ちた目で高笑いしながら、
タカくんはその場から姿を消した。

けれどそんなこと、
あたしにはどうでもいい!

目の前で倒れた佐伯くんの体からは
ヌルッと生温かい血が、大量に流れ出していた。


「・・・佐伯くん・・・しっかりして!
 佐伯くん!!」


あたしは叫びながら
彼の血がこれ以上流れ出さないよう
重ね着してたキャミソールを1枚脱いで
カレの腰付近にあてた。


「・・・佐伯くんっ!!」


キャミソールはどんどんカレの血を吸い、
暗い色で染まっていく。



( どうしよう・・・。
  あたし、ケータイなんて持ってない!
  走れば5分で家に着く。
  だけど・・・もし行ってる間になにかあったら?
  またアイツが戻ってきたら? )


色々なことが頭のなかを駆けめぐる。
だけど、どうしていいかわからない。

助けを呼ばなきゃいけないのに、
どうしてもカレのそばから離れられなかった。



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