迷子のコイ
「そこ、座って」


言われるがまま白いソファーに腰をおろした。


「いま、起こしてくるから」


そう言ってそのヒトは、
リビングの奥に見える
茶色いドアを開いた。


「俊哉ぁ」


その部屋から、俊哉を呼ぶ彼女の声が聞こえる。


「俊哉ぁ、起きてよぉ」


彼女の部屋と同じ
甘ったるい、彼女の声。


「俊哉ぁ、ほら起きて!
 やぁだ! どこ触ってんのよぉ!」


彼女の声が、耳について離れない。


( キモチワルイ・・・ )




「・・・カワイイお客さん、きてるわよ」


「・・・客?」


男のヒトの声が、はじめて聞こえてきた。

あたしは席を立った。

胸が、だんだんムカムカしてきた。
この甘い匂いが、
ますますあたしを酔わせるようだ。


「待ってよ!」


玄関に向かったとき、
部屋から出てきた彼女があたしを呼び止めた。


「すぐ来るから座んなよ、ね」


・・・カケルのいるという部屋から
出てきた彼女の髪は乱れていた。


あたしはますます気分が悪くなりはじめた。


「・・・あの、スイマセンあたし、
 なんだかキモチわるくなって・・・」


「え~ダイジョーブ?
 それならウチで休んできなよ、ね!」

彼女はしつこくあたしに言った。
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