迷子のコイ
・・・どれくらいの間
あたしはその鍵を見つめていたんだろう。


我にかえったとき
あたしは自分が恐ろしかった。


( 鍵だけポストに入れて、帰ろう )


そう決意して、
あたしはまた
あのマンションへと行くことになった。


マンションに着いたとき
あたりはもう暗くなり始めていた。

あたしはマンションの2階へ上ると
カケルの部屋でもある
赤いドアの前で、
しばらくの間、立ちつくした。


まるで、初めてここに来た
あの日のように。


あたしはおずおずと
鍵を握った右手を
ドアのポストへと近づけた。


この鍵を入れて、帰ればいい。


けれどなぜかあたしは
躊躇した。



( このドアの奥に、カケルがいる )


そう思うと、この場から離れられない。



( ・・・ダメ・・・ )


( ・・・ダメだよ・・・ )


あたしは自分と葛藤した。


 ( 人の家に勝手に入るなんて、絶対ダメ )


頭ではそう思っても、
体は言うことをきいてくれない。



2年ぶりに会った、
カケルの顔が脳裏に浮かんだ。


それはまるで甘い洗脳のように
あたしの心を突き動かす。


理性を、超えて――――――――。
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