迷子のコイ
カチャン・・・・


聞きなれない鍵の音が
静かにマンションの廊下に響いた。


あたしはツバを飲み込み、
音をたてないよう、そっとドアを開ける。


玄関に入ると
その廊下に続くリビングからは
物音ひとつ、していなかった。


カゼをひいてるって、
美羽《みはね》さんは言ってた。


カケルはまだ、
寝込んでるのかもしれない。


リビングに行くと、
やはりそこには誰もいなくて
部屋の明かりだけが煌々とついていた。
あの日と同じ、
あまい匂いが部屋中を包んでいる。



あたしは以前来たときに
美羽さんがカケルを呼びに行った、
あの奥の部屋へと進んだ。


ドアの前で
深呼吸、ひとつして
あたしはそのドアノブへと、
手をかけた。
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