迷子のコイ
「美羽《みはね》が言ってたぞ。
オマエに鍵預けたって。
あのハンカチ、オマエのだろ」
( ・・・なんだ・・・ )
美羽さん、そんなことまで
カケルに言うんだ。
チクン と
胸の奥にトゲが刺さったようだった。
「・・・来いよ」
「ちょ・・・ちょっと!何?」
「いいから来いよ」
カケルが強引に腕をつかんだ。
「返すから 来いよ」
「えっ どこに?」
「俺ンち」
カケルが何気なく言ったその言葉は
あたしをとても
哀しくさせた。
『俺ンち』って言った、
その言葉が・・・。
カケルにとっての『帰る場所』は
もうあそこなんだと
言われたみたいだった。
「・・・もういいよ!
あんなハンカチいらない!
捨てちゃってよ!」
「・・・んな訳にもいかねーだろ」
興奮ぎみな あたしに対して
カケルはあくまで冷静だった。
カレは強引にあたしと手をつないだ。
5分くらいたつと
暑さのせいか
緊張のせいなのか
手から汗が
じっとりと流れ始め
それがなんだか
恥ずかしかった。