迷子のコイ
「入れよ」


「・・・いーよ。
 ここで待ってる」


あたしはマンションの
赤いドアの前で言った。


「いーから入れよ。
 美羽《みはね》、今いねーし」


「いーよ!」


思わず口調が強くなる。


「・・・美羽さんがいないなら
 余計だよ。
 『カノジョ』に悪いもん!」


カレはあたしを見た。


「美羽なら、
 そんな事気にするヤツじゃねーから
 大丈夫だよ」


そう言ってあたしを玄関に押し込める。



「・・・よく、わかってるんだね」


「は? なにが?」


あたしはカケルの疑問には答えなかった。
代わりに静かに微笑んだ。


カノジョとカケルの暮らすこの部屋に
足を踏み入れたのは3度目だ。


今ではもう慣れてしまった
この部屋の芳香が
まるで美羽さんのように
あたしは感じた。
 
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