迷子のコイ
「アイリ、オレとつきあわない?」


それからしばらくたった
放課後、
あたしは急に俊哉に告られた。


俊哉とは
ずっと仲のいい
友達だと思っていた。


正直、
俊哉の気持ちを知って
うれしかった。


きっとすこし前までのあたしなら
そんな大切な友達さえも
傷つけていただろう。


自分がどれだけ守られて
自分がどんなに浅はかな子供だったか
今ならわかる。


あたしは俊哉に
精一杯の感謝をこめて


「ごめんね」って伝えた。


カレはそれ以上、
何も訊かなかった。


俊哉はきっと
あたしの気持ちを
わかっていたんだと思う。

わかっていて、
告白したんだと思う。


すぐにいつもの顔になって
サッカー部に戻っていった。



季節はめぐり
あたたかな風が
鼻先をくすぐった。

季節はやっと
春へと移り変わろうとしていた。
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