迷子のコイ
ふっ・・・とカレがこっちを見て笑った。


「早坂、さ」


「えっ」


「俺のこと、・・・苦手だろ?」


心のなかを見透かされたようになって
あたしは、顔が赤くなるのを感じていた。

なにも言えずに困っている、
そんなあたしの反応を楽しむように
カレは、じっとあたしのことを見ていた。




「おい! 俊哉!」


急に
前を歩くふたりを呼び止め、カレが言った。


「俺、ワスレモノ思い出したから戻るわ!」


前を歩くふたりに声をかけたカレは
となりにいたあたしには
それ以上 声もかけずに
いま来た道を戻っていく。


あたしは1度だけ
そんなカレの・・・・・
『佐伯カケル』くんの背中を、振りかえった。


『カレ』のことが、『苦手』だった・・・。


だけど・・・・・
来た道を
走りながら戻っていく
カレの背中を見ると
心に穴があいたようにさみしくもなった。


カレに対するこのキモチがなんなのか、
このときは、まだ、知らずに・・・・・。

 
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