迷子のコイ
『むかしの言葉ってさ、
 きれいな言葉が
 いっぱいあるよな------』



あたしの耳元で、
だれかがそっと、囁いた。


その囁きが『だれ』の声か
すぐにわかったけど、
これ以上
思い出したりしないように
あたしはその『声』を
無理矢理
心の深い、
深いところへと押し込んだ。




『アイリ』


あたしを呼ぶ、低い声・・・。


窓の外に目をやりながら、
何も考えないようにして、
だれもいないグラウンドの一点を
あたしは
ただただ、見つめつづけた。
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