迷子のコイ
「・・・まちがいない。
 あれは絶対、
 『カケル』だった・・・!」





 『 カケル 』 


その名前を聞いた瞬間に
あたしは足元から
崩れ落ちそうになった。



 『 カケル 』


その名前を何度呼びたかっただろう。
あたしが生まれてはじめてスキになった
ただヒトリの
そのヒトの名を――――――。


『 佐伯 カケル 』





「いま・・・・」


俊哉がナギにハナシを続けた。


「アイツ、日本にいるんだよ」


「ウソ! だって・・・・
 アメリカに行ったはずじゃ・・・」


「・・・・わかんねーよ!
 俺にもわかんねーけど・・・
 だけど絶対、アイツだった!!」


あたしは息を殺しながら
ふたりの話しに、耳を傾けた。


「アイツいま、
 ・・・女と暮らしてるよ」


「・・・・・ウソ・・・・」


その言葉が
ナギの口からでたのか
自分の口からでたのか

その時のあたしには、
もう何もかもが、わからなかった・・・・・。
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