迷子のコイ
「ゴメン。 カケル待ったか?」


「いや、そんな待ってない」

今日からテスト週間がはじまって
テストが始まる前の3日間、
部活動はお休みだった。

今日はみんなで俊哉の家に集まって
ナギ先生のもと、勉強会。
ひとりだけクラスの違う
佐伯くんを迎えにきたあたしたち。


あたしは、俊哉のうしろから
チョコン・・・とカオをのぞかせた。




・・・・・瞬間、
カレの立っていた
窓際の向こうの
一面真っ赤に染まった空が
いやおうなしに
あたしの目のなかに入ってきた。


一面に染まった赤い空の、
そのあいだ、あいだに
青とも紫ともいいいがたい
ほそいほそい雲が
その空のあいだをかいくぐり、
それはとても・・・こわかった。


あたしはすべてを忘れたように
その空のうつくしさと
その前に立つ
カレの姿に心奪われてた。




「・・・アイリ?」


目の前で俊哉がブンブンと手をふる。


「・・・えっ・・・あ?」





―――――――あたしはその時
まだ気づいていなかった。


カレを『名前で呼べない自分』と
カレの前にでると『緊張してしまう自分』、

カレがあたしのとっての
『特別』だっていうことには、
このときは、まだ・・・・・。

< 67 / 203 >

この作品をシェア

pagetop