迷子のコイ
「・・・あのっ、アリガト」


内情を知らない佐伯くんに
『ありがとう』なんていっても
わけがわかんないか、
なんて思いつつも
あたしはカレにお礼を言った。


けれど
助けてくれたはずのカレは
あたしをひどく冷たい目で見て
こう言った。




「オマエさ、いーかげんにしたら?」


「え?」


「あんなヘラヘラした態度でいるから
 男に気をもたせるんだろ?
 ・・・いーかげんにしろよ!」


・・・それだけ言って、
カレはグラウンドへと戻ってく。


楽しそうに帰っていくみんなの声が
なんだかやけに大きく聞こえた。



「・・・ヘラヘラなんて、してないよぉ・・・」


うつむいて、
つぶやきながら言ったその声は
きっとその中にいる誰にも
届いていなかったと思う。



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