騒音に耳を塞いで [ss]
「九[ヒサシ]、瞳孔が不安定ね。それじゃあ私のボディーガードなんて一生無理よ。そこに座りなさい。毅然とした目をして、ずっと心から笑っていてくれないと、私が不安よ」

 男はやや躊躇ったがゆっくりと椅子に座る。華奢な椅子の薔薇の細工に触れた手を前で組む。凪は包帯で隠れた右半分の顔を飴色に染める。いつもなら真っ赤になって、頬を膨らませて、そうやって怒るのに。今日は独眼で男を見据えている。

「警察は?」
「帰りました。お嬢様の状態を見て、事情を訊くのは困難だと判断したようです」

口を開けてゆっくりと話す。

「そう。じゃあもう来て欲しくないわね。記憶が飛んじゃって誘導尋問されちゃいそうだもの」

 凪は笑って、男の口を読み答えた。

 それから忌々しそうに話題を提供する。狂った感情はそっと息を潜めて男の前には現れない。

「一人で大丈夫だから、あの人達に報告にいったら?」
「もう既に」
「なんて?」
「特には」
「そう」
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